第1図
第1図より
93角、84歩合(イ)
本作は、まず原理図から説明していく。
左の第1図は、この「園裡の虎」の原理図である。
そして本作は、この原理図と右側が接合して出来上がっている。
黒田氏との最後の共作で、この原理図から「時間差打診」という概念を作った。
しかしその時点では作品としては未完成で、そのまま一族は空中分解した。
そして、それから数年経ったある日、人と待ち合わせのとき、偶然にも完成した。
待ち合わせに一時間も遅れてきた相手にお礼を言いたい気持ちだった。
原理図はまず、93角と打ち、これに対して打歩詰に誘致する「打診」で応じる。
第2図
第2図より
同角成(A)75角(ロ)同馬、67玉、66馬、同玉、93角、75角(ハ)にて第3図
第2図で、84歩とせずにいきなり75角と中合するのは、何と本手順12手目と同じになる。
しばらく、第2図からの手順を追っていこう。
(A)のところ、84歩の打診を同角
以降、84歩の打診が幾度か出てくるが、すべて成らないと桂合で詰まないようになっている。
蛇足ながら(ロ)のところ桂合は、同馬、67玉、79桂で詰む。
そうして、66馬だがほかに手もないので、こう進む。
この作品は、玉方の延命がテーマで、攻め方の手には余り紛れがない。
だから、コンピュータなどで解かせると易しいように見える。
第3図
第3図より
67歩、57玉にて第4図
しかし、近代将棋掲載時の正解者はたったの三名だった。
しかも、間違った人も正解者も、詰上がりは同じ図面だった・・・。
これは、わたくしたちの一つの傾向である。
「千山」も同じように解答者が分かれた。
さて、第4図は珍しく詰め方の選択がむずかしいところ。
75同角不成といくが以下、76玉、77歩、同玉、66角、同玉、93角、75角、同角成、
67玉、68歩、77玉、66馬、同玉、93角、75角、同角不成、となって作意31手目と
同じ局面で1歩足りない。
第4図
第4図より
75角不成、66歩(ニ)にて第5図
67歩が難手である、打たれてみれば何と言うこともない手だが。
これに対して、67同玉と取るのは、68歩、57玉、75角成、66歩、同馬、同玉、93角
以下詰む。また76玉とかわすのは75と、67玉、68歩、66玉、65と、76玉、66とまで。
そうして、57玉とかわして第4図、当然の75角不成、にまたも延命の66歩だが・・
(ニ)で67玉とかわすのは、68歩、76玉となるが、これも作意順36手目と同じ局面。
こちらは20手早く詰む。
このように、あちらこちらに延命のための陥穽が設けてあるので、それらをすべて
クリアーしないと正解に近づけない。
ゆめゆめ油断召されるなよ・・・
第5図
第5図より
66同角、67玉、68歩、76玉、77歩、66玉、93角、84歩(ホ)にて第6図
さあいよいよ、本作の山場にさしかかってきた。
第6図となって、84歩中合。
この中合は?これも態度打診の中合なのだが、盤面詰方77歩の存在が鍵となる。
84歩自体は、角を成らなければ桂中合で、角を成れば角中合で、対応する。
だから態度打診といわれるのだが、第6図からの手順で、もう一度同じ局面が
出てくる、否一箇所だけ異なる、そう先の盤面詰方77歩だ。
これがないとどうなるのか?
この二つの差が、当時の解答者や解説者を混乱させ、論議を呼んだ。
有効合なのか?無駄合なのか?
第6図
第6図より
同角成、75角、同馬、77玉、66馬、同玉、93角、75角(へ)にて第7図
では、第6図の84歩の打診を省くとどうなるのだろうか?
これも例のごとく、10手早くなる。
第6図から、いきなり75角中合は同角不成、77玉で34手目と同一局面になる。
では第7図(へ)では、なぜ84歩中合ではなく、75角中合なのだろうか?
よく見るとわかるが、第6図から第7図へは持歩が1枚増えたのと、盤面にあった
77歩が消えた、言ってみれば、盤面77歩を持駒にしたような順になっている。
しかし、第7図から、84歩合はまったく同じ順で、同じ局面に戻り1歩増えている。
これは明らかに、無駄合であるといえる。
第7図
第7図より
同角不成、76玉、77歩、同玉、78歩、76玉、65銀にて第8図
そういう事情が重なって、盤面77歩があるときは84の打診が有効で、77歩がないと
84の打診は成立せずに75の地点で角中合となる。
この頃もそうだが、無駄合に関しては人を熱くさせる何かがあるようだ。
無駄合をきちんと規定しようとすると、ではこんなのはどうだというヘンテコな
図面が出てきて、これを有効合とするのか?といわれ、オジャン。
このような繰り返しで、いまだにきちんと出来ないのだから、奥が深い。
さて第8図で、54銀⇒64とのすり替えが行われる。
意味はあとで判明するが、このすり替えが入って、作品となった。
第8図
第8図より
同玉、64と引、76玉、77歩、同玉、66角、76玉、77歩、66玉、
93角、84歩にて第9図
この「園裡の虎」が出来たのは、先にも述べたように待ち合わせの待ち時間で
接合のアイディアが浮かんだからだ。
ひょんなことから、謎は氷解する。
そして、黒田氏行方不明の中、素田黄を誘って、日本将棋連盟の地下の食堂で
森田銀杏氏に会う。
近代将棋に掲載するとともに、解説をお願いするためだった。
さあ、第9図となって、またもや84歩合の延命策。
第9図
第9図より
同角成、75角、同馬、77玉、66馬、同玉、93角、75角にて第10図
わたくたちが千駄ヶ谷の連盟に着くと、森田氏はすでに先に席についてうまそうに
ビールを飲み干していた。
「詰将棋の仲間はいいなあ、時が経っても、少しも変わらない」
そういえば、「千山」の時に黒田氏とわたくしとで、渋谷で会って以来だった。
ほろ酔いで、わたくしたちの言っていることがわかるのかと思ったが、当時の
解説を読むと、杞憂だった。
第10図となって、54銀⇒64とのすり替えの意味がわかる。
第10図
第10図より
65と、同銀、75角不成、76玉、77歩、同玉、78歩、76玉、67角
まで65手詰
65とと引いて、同玉は75角成で早い。
仕方がない65同銀だが、これであっけなく収束を向かえる。
序盤もなければ収束もなく、ただただ角と歩のパズルになっている。
これぞわたくしたちが求める理想の形であり、余分なものを一切排除している。
「将棋的」なむずかしさはなく、組み合わせや延命意味づけを考える。
もし、黒田氏が時間差打診を提案しなければこのまま出題されていただろう。
では、時間差打診とは一体何か?それは園裡の虎(本図)の項をご覧いただこう。