第1図
第1図より
56飛、65玉、66飛、54玉、56飛打、55銀(イ)にて第2図
近代将棋1982年10月号で掲載された後、余詰めが発見された悲運の名作。
とても修正は不可能といわれていたが、歩18枚を使って(どれもみんな必要だった)
直した。
この年の3月、アルゼンチンは東500キロの「フォークランド島」で紛争が起きた。
その時、使われたミサイル「エグゾセ」を飛車や香車に見立てて、この名前がついた。
まったく不思議な名前の付け方だ。
飛を2発、発射して銀合となる。
ここ(イ)角合は、55飛、同玉、47桂、54玉、65角、64玉、56桂、53玉、43角成以下。
第2図
第2図より
55同飛、同玉、56銀(A)54玉、65銀、53玉、56飛、54香(ロ)にて第3図
第2図〜第3図にて舞台が出来上がった。
ここから、ミサイルが53めがけて何発も発射される。
(ロ)で、54角合は、54銀、64玉、65銀、同玉、66飛、55玉、47桂、54玉、65角
以下、上記の変化イと同じように詰む。
同じく(ロ)で54飛合は、54銀、64玉、65飛、74玉、66桂、85玉、75飛以下詰む。
黒田氏は詰将棋を作るときに、必ず解答強豪や終盤に強い者に、テストしていた。
本作も、この序盤をつけて何人にも試したが、誰一人として、ここまでたどり着
かない。
なぜなら、ほとんどの人がAで46金(紛れ1図)とするからだ。
紛れ1図
誤解その1=紛れ1図より
46同歩、56銀、54玉、65銀、53玉、56飛、54香、・・・
この作品には、収束となる鍵がない。
以下の手順を見ていただくとわかるが、5筋からミサイル(飛車や香車)を連発するも
それで何か質駒を取ったり、駒が成りかえったりすることがない。
そこで、4筋の状態変化に気がつくのである。
桂を二枚持っているので、これを使う場所を考える、すると45桂からの打開が見えてくる。
ところが、そこに打てるのは何と63手目!なのである。
しかし、多くの実験解答者は9手目に46金とやってくる。
なぜか?それは55手目からの左へ脱出する順に心理的抵抗感があるからで、後でも
46金と行くチャンスがあるのだが、それが見えないために、序盤でやってくる。
第3図
第3図より
54同飛、42玉、53飛成、同玉(ハ)、55香、54角(二)にて第4図
実は、紛れ図で46金が成立しないのには、この先の変化に関係している。先を急ごう。
第3図から、飛⇒香の変換をして再びエグゾセ(香)を発射すると、今度は角合になる。
まず、(ハ)のところの同玉で、同桂と取るのは、54桂、41玉、31と、同玉、42金。
また、(ニ)のところの54角で、54飛合は、54銀、64玉、56桂、55玉、67桂、56玉、
66飛、57玉、47金迄。
すなわち、ここでの飛合を詰ますためには、盤面47金が必要なのだ。
だから、先に46金と行くとここで、飛合をされて詰まない。
ところが、この46金を指さないで本譜と同じように、進めるとある法則に気がつく。
それは、左辺の形だ、83と型⇒55香に角合、72と型⇒55香に飛合という法則・・・
第4図
第4図より
54同香、42玉、15角(B)にて第5図。
飛⇒香⇒角とめまぐるしく変換が行われて、一体何をどうしたら次の扉が開くのか?
打開の必殺手は15角なのだが、これがわからないと、第4図から、54同香、42玉、
53香成以下作意と同じように進む。
この地獄にはまった実験解答者の感想がふるっている。
「刻々と締め切りが迫っている状況で、何かを忘れてきたような不安と戦っている」
たしかに、われわれの詰将棋には、そういった意味での鍵がない作品が多く、
解答者を不安に陥れてしまう。
しかも、15角自体に気付いても、後で解説する左へ玉が脱出する順が見えないと辛い。
第5図
第5図より
24飛にて第6図。
最初は、この15角が意味がわからない。
最後の収束で判明する、構想的な着手となっている。
(B)15角で71角とすると、以下作意同様に進んで、収束で24から逃れる。
この一手は解いた人間にしかわからない感触だと思う。
打てることがわかっていても、それが何のためか判明した時の感動は大きかったようだ。
さあて、ここで何を合するのか?
次譜を見ていただければわかるが、角合は、変換が早くなる分手数が短いので、飛合が
正解となる。
こういった全体的な早詰順がよく出てくるのも、われわれの特徴だ。
第6図
第6図より
24同角、同香、53香成、同玉、55飛、54香、同飛、42玉、
53飛成、同玉、55香、54角、同香、42玉、53香成、同玉(ホ)
71角、62香(へ)にて第7図。
第6図の24飛合で24角合は、以下同角、同香の局面が、(ホ)と同じになる。
従って玉方最長の原則により、飛合をして、変換に手数をかけさせる。
(へ)62香合のところ62飛合は同角成、同玉、73と、同玉、72飛、84玉、
74飛成、95玉、75龍以下。
ここでの71角⇒62香合は、ただ一回しかできない。
なぜなら83と型⇒72と型は非可逆的過程だからで、元へ戻れない。
そのため、制作上はどこのタイミングでこれを入れるかという苦労がある。
第7図
第7図より
62同角成、同玉、72と、53玉、55香、54飛(ト)にて第8図。
ここで、紛れ1図の話を思い出してほしい。
62香を取って、83と⇒72ととなった状態。
今までは、55香に対して常に角合だった。
それは、83と型⇒55香に角合、72と型⇒55香に飛合という法則があったから。
だから序盤で46金と捨て、以下駒交換に5筋で折衝をすると、角合としてしまう。
ちょうど第4図で、46金・同歩の交換が入っているものと考えるとわかりやすい。
しかしその図は、以下同香(角を取る)、42玉、15角、以下詰んでしまう。
恐怖の落とし穴である。(先にも書いたが実は飛合が47金が消えているので不詰)
(ト)で角合は、54香、42玉、53香成、同玉、62角、42玉、54桂まで。
第8図
第8図より
54同香、42玉、53香成、同玉、56飛、54香、にて第9図。
先に72と型になると55香⇒飛合と書いたが、83と型の場合、第8図で、54同銀がある、
54同銀以下、64玉、56桂、(55玉は65飛以下詰む=変化二参照)74玉、63銀不成、
85玉、86飛、95玉、96歩、94玉、93と・・・詰む。
ところが、83と⇒72とになると、この変化が詰まないため飛合となる。
初形から、飛⇒香⇒角⇒飛(15角から変換)⇒香⇒角⇒香⇒飛と目まぐるしく
駒が変わっていく。
さていよいよ、クライマックスへと向かう。
第9図となって、再度同飛は千日手になってしまう・・・
はて?
第9図
第9図より
54同銀、64玉、66飛、54玉、56香、55銀、同香、同玉、46金、
にて第10図。
同銀が普通の発想にない手。
左へ逃がす上に、83と⇒72とになったので、なお一層やりにくい。
66飛に74玉は、63飛成、85玉、86香、96玉、93龍以下。
原型に戻す一瞬の間隙を縫って、待望の46金が成立する。
24に香がいる状態で、4筋の歩と香を一つずつ上げると収束が見えてくる。
第10図
第10図より
46同歩、56銀、54玉、65銀、53玉、56飛、54香、同飛、42玉、
53飛成、同玉、55香、54飛、同香、42玉、53香成、同玉、
45桂にて第11図。
再び初形と同じように、5筋の変換が始まる。
ただ違うのは22香⇒24香、83と⇒72と、45歩⇒46歩。
この微妙な変化が収束を可能にする。
本譜最後の45桂もワンチャンス(麻雀の好きな黒田氏はよく好んで
この表現を使った)で、これより前に使うと、44から逃げ出される。
第11図
第11図より
45同香、54飛、42玉、43銀成、同玉、35桂、33玉、34香、42玉、
44飛、53玉、43飛成まで93手詰。(詰上り図)
いよいよ大団円。
詰上り図を見てほしい。
序盤で打った角のおかげで、24が見事に封鎖されている。
序盤から動いた舞台装置は、4ヶ所だけ。
こういうところも、われわれの作品の特徴だ。
いわゆる駒を捌くのではない。
空間をどう捌くのか、それがわれわれの作品の特徴といえる。
詰上り図
詰上り図
この時代1980年代はこういう構想型の作品が少なかった。
条件作、長手数作品等が花盛りで、こういった一口で表せない独自の世界を
持つ人は少なかった。
むずかしい、やさしいという点では、難解作といわれた方だが、いま改めて
見直してみると、構想の立て方や、その実現性、そして何より、パラメーターの
置き方などに独創性を感じる。
後の「千山」や「園裡の虎」に代表されるような、解答者が手数分け出来るような
作品に発展する前の作品としての意義は十分あると思う。
投稿原図
投稿原図
本作は発表後余詰が発見されていて、修正は困難とされていた。
当時の解説者、森田正司氏は4筋の歩と香を入れ替えれば修正と言っていたが
そんな簡単なものではなかった。
余詰順とは、55桂が打てることに起因する。
作意同様に進んで、9手目にいきなり例の46金が出る。
確かこれは、5筋での変換後に、55香、54飛で不詰だった。
余詰1図をご覧あれ、ここでの54飛合が急所で、
@同香は42玉、53香成、同玉、56飛、54香、同飛、42玉、53飛成・・で千日手。
A同銀は、64玉、56桂、55玉、以下盤面から47金が消えているので不詰。
だったはずだが・・・・。
余詰1図
余詰1図より
同香、42玉、53香成、同玉、45桂、同香、54飛、42玉、
43銀成、同玉、55桂、33玉、35香にて余詰2図。
何と、いきなり収束に入って55桂が成立してしまった。
作意順では、15角、24飛、同角、
はずなので、35桂とカバーしなければならなかったはずだが。
そういう変換の前なら55桂が成立する。
余詰2図となっては、35香に、23からも24からも逃げ出せない。
まさか、こんな簡単な55桂を見落とすとは、考えられないが。
並み居る検討陣も唖然とするよりほかなかった。
さしずめ今なら、コン君で一秒だろう。
余詰2図
余詰2図より
42玉、44飛、53玉、43桂成、62玉、72と迄。
さてこの余詰めを如何に直すか。
まず、この余詰順は何が原因なのか?
問題は23の歩である。
15角⇒24飛の交換は必須の手順であるから、この2筋に何かを利かせる
必要はあるが、歩では、23をあらかじめ塞いでいるので×。
そこで、22香の配置はすぐに浮かんだ。
22香なら、今の余詰順は成立しない。
23から逃げ出せるからである。
しかも、15角⇒24飛の交換を入れれば、収束は成立する。
再掲投稿原図
投稿原図を再度見てほしい。
@盤面51香を22へ
A代わりに51へは歩を配置する
Bすると57の垂れ歩が二歩なので、これを省く
☆83と型では、55香、54飛、のとき『同銀、64玉、56桂、55玉、65飛、56玉、68桂まで』
☆盤面57歩が玉の退路を封鎖している。
Cそこで、48歩を置いて、変化の最終手68桂の代わりに、47金と寄る手を作る。
☆また、この57歩がないと、紛れで57桂と打たれる手が生じる。
Dそこで、58とを置く
☆おっと、23歩を省いて、22香にしたため、2筋に歩が立つので、合駒制限のために、
E27歩を置く
☆ふうっ、やっとこれで終了。数えてみたら、盤面全体で歩が18枚使われていた。