今井光作品

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第1図(87飛⇒89飛)

第1図

第1図より
48銀、68玉、59銀、57玉、58銀上、68玉、88飛、59玉(イ)89飛、68玉
にて第2図

そのすべてが、従来の詰将棋を超えた異色の作品「今井光作品」。
今なお、少しも色褪せることなく燦然と輝いている。
この作品には謎を解くための「鍵」がない。
否、知力の限りを尽くしたものだけに与えられる「鍵」しかないと言えば良いだろう。
初形から左銀を48から58へワープする。(48銀型⇒58銀型)
これは後の1歩稼ぎの過程なのだが、(イ)で77玉と逃げる手を封鎖するためだ。
変化(イ)⇒78飛、86玉、75銀、同歩、87歩、同玉、89香、88香、同飛、77玉、78飛まで。
この最終手78飛の時、67玉と銀を取られないために58銀型にしている。

第2図(1歩稼ぎ)

第2図

第2図より
49銀、57玉、48銀、68玉、37銀、28歩(ロ)にて第3図

第2図となって87飛⇒89飛となって、次に58銀型⇒48銀型へ戻す。
そして、第3図となって28歩の中合だが、これを欠くとどうなるか?
変化(ロ)⇒59飛、47玉、56銀、37玉、39飛、26玉、27歩、同桂成、15銀以下詰み。
この変化の初手59飛のための、序奏の87飛⇒89飛。
しかしほとんど動きのない局面から突然1歩稼ぐのだからむずかしい。
こういうトリッキーな動きを「近似値ゼロのトリック」と言っていた。
黒田氏は、当初この変化を同手数駒余り!まで延ばした。(上辺が空いている)
しかし、あまりのむずかしさに正解者がいなくなることを恐れ、簡単にしたと言う。
それでも、正解者はいなかったんだよね・・・・。

第3図(77香の消去)

第3図

第3図より
同飛、57玉、48銀、68玉、88飛、77玉、87飛、68玉にて第4図

この作品は、二つの銀の形をうまく使い分けている。
48銀型⇒@88飛の時59を封鎖A88飛、77玉の時、打歩詰を打開させない。
58銀型⇒@88飛の時77を封鎖A玉方に香をもたれると88飛に78香中合が発生する。
第3図からは77香を消去するが、これは後の66歩消去の変化に備えるため。
そして、上にの記したように59を封鎖するため、48銀型のまま、飛を活用する。
この、1歩稼ぎと、77香消去の手順前後は成立しない。
初手から、48銀、68玉、の時88飛なら、77玉(48銀型なので59が封鎖されているので)
の一手で、以下87飛、68玉と確かに香は消せる。
しかし次に49銀、57玉、58銀、68玉、88飛の時、78香(77玉で入手した)で逃れる。

第4図(66歩の消去)

第4図

第4図より
59銀、57玉、58銀上、68玉、69銀、57玉、58銀引、66玉(ハ)にて第5図

一体何のための1歩稼ぎで、77消去なのか?
答えを見ているわれわれは、なぞるだけだが、解答者にいたってはチンプンカンプンだ。
そして、今度は66歩の消去である。
これらはすべて、後に66へ角を打つための準備。
しかし、初形に角は一枚も存在しない。
これから起きる、針の穴の僅かな歪みに、角合による逃れ筋がある。
解答者これらをすべて読まされ、、読みに読んで、最初に戻る。
そして集められた情報を基に、はじめから再構築をしなければならない。
変化(ハ)⇒56玉と逃げられたらどうするのか、これは次の変化1図で。

変化1図

変化1図

変化1図より
57飛、66玉、67銀左、77玉、78銀引、88玉、87飛、98玉、
99歩、同玉、89飛、98玉、99歩、97玉、87飛まで。

本変化の初手57飛を77香が邪魔していた。(77消去の意味)
また、この変化手順で、詰方は歩を二枚使っている。
この二枚目の歩は序奏で1歩稼いだから入手出来た。
このことで、1歩稼ぎ⇒77香消去⇒66歩消去と言う順番が確定する。
先ほど、1歩稼ぎと77香消去の手順前後が成立しないことは証明済み。
このように構想作品や謎解き作品は、「仕事」自体の手順前後が起きないように
作られている。
何気なく時系列で並んでいるようだが、作る側はそういうことに腐心している。

第5図(再び48銀型へ)

第5図

第5図より
67銀右、57玉、58銀上、68玉、49銀、57玉、48銀、68玉にて第6図

66歩の消去の次は、75成香の移動だ。
この手順は、左の飛車を使って行うので、59を封鎖して玉を左辺に追う。
そのため、66歩消去の段階で58銀型になっていたので、これを48銀型へ。
では、66歩消去と75成香の移動との手順前後はなぜ成立しないのだろう。
変化1図を再び見ていただこう、この図で75成香⇒85成香になっていたら、
この変化で変化1図より57飛、66玉、67銀引のとき75玉と成香の居た所に
逃れて詰まない。
すなわち、先に75成香を消去すると66歩が消去できない仕組みになっている。

第6図(75成香の消去)

第6図

第6図より
88飛、77玉、78飛、86玉、85と、同成香、88飛、77玉、87飛、68玉にて第7図

75成香⇒85成香を終えて、第7図となる。
またここで、48銀型⇒58銀型とする。
これは、今度は再び77への逃げ道を封鎖して収束に入るための準備。
本作は、作者自身もほとんどの手順・変化・紛れを忘れてしまっていて、第一
黒田氏とわたくしが出会ってからしばらく経って、作者がこの作品があることを、
思い出した始末。
後でわかったが、一つ作るごとに膨大な変化紛れを読みきるので、これが出来上
がると、音を立てるように崩れ落ち、そうしてほとんどが忘却のかなたへ・・・
結局、わたくしは国会図書館にまで足を運んで、本作を「再発見」した。

第7図

第7図

第7図より
59銀、57玉、58銀上、68玉、88飛、78香(ニ)にて第8図

さあ、いよいよ収束を向かえる。
先にも書いたように、この58銀型へ移行してからの88飛には常に78香という逃れ筋が
ついて回る。
だから、今までのような下準備をしておかないと、58銀型から88飛と言う手段は成立
しない仕組みになっている。
第7図から、その58銀型へ組みなおして88飛に78香合だが・・・
変化(ニ)⇒78香合をせずに単に59玉は、89飛、68玉、49銀、57玉、48銀、68玉、69歩
77玉、87飛まで。なんと、69歩が打てて詰むようになっている。
つまり、75成香⇒85成香をしなくても、66歩消去さえクリアーすれば本変化は詰む・・・

第8図

第8図

第8図より
49銀、38角(ホ)にて第9図

従って、66歩消去の後にすぐに収束に入ると、ここまでは到達できる。
しかしそれでは、66角が打てず地獄の三丁目に入ってしまう。
さて、左図で49銀と引いて、59玉ともぐる手には・・・
変化(ホ)⇒59玉は、48銀、49玉、89飛、79金、同飛、同香成、39金まで
変化の89飛に対して、38に右の飛をおびき寄せておけば、38玉がある。
作る側からみれば、このあたりの逃れ順から作ったと思う。
黒田氏は、この作品を思い出すとき、飛車が中空に浮いた時に連続角中合で
逃れる順を応用したといっていた。
最初はそういう構想だったのだろう。

第9図

第9図

第9図より
同飛、59玉、89飛、79角にて第10図

38角中合を取り、もぐる玉に89飛と引いて今度は79角。
ここを金合は以下79同飛、同香成、68角、49玉、39金で簡単。
そういえば、この作品もそうだが、われわれの作品には、むずかしい変化は
あまりない。
言われてみれば確かに詰むという、簡単な順ばかりだ。
しかし、それを何のために、どういう順番で、と言うところが、むずかしい。
つまり、将棋の力はあまり必要ない、知力が求められる作品と言えるだろう。
してみると、唯一の正解者米長永世棋聖は恐ろしいほどの知力の持ち主だと言える。

第10図

第10図

第10図より
同飛、同香成、48銀、49玉、39飛、48玉、66角にて第11図

ふうっ、やっと66角が打てる。
すべてはこの局面のためだったのだが、まさにここに到達するのは至難の業である。
この恐ろしい詰将棋をたった三時間で解いてしまう、時の名人はスゴイ。
米長永世棋聖も以ってしても三時間と言うべきだろうか。
とにかく解き終えた時に、「万歳!」と叫んでいただけたと言う米長事務所のアシスタント
のお話を聞いてそれだけで十二分に報われた思いだった。
第11図となって、この66角に57銀合は57同角、同玉、58銀打、48玉、57角で早い。
最後に銀が玉方に渡ったので、こういうところもしっかり割り切れてないとまずい。

第11図

第11図

第11図より
57桂、同角、47玉、48歩、57玉、58歩、48玉、57角、47玉、59桂まで79手。

駒を捌くわけでもない。
ましてや何らかの条件をクリアーしているわけでもない。
趣向的な繰り返しの中に、予想だにしない未来の局面に備えたからくりがある。
そして、知的に練られ作り上げられた、そのもろもろが相互に補完しあいながら
手順前後を許さず横たわっている。
その年の塚田賞(近代将棋に掲載された詰将棋に送られる最優秀賞)は、他の作品
だった。
本作が賞を逃した理由がふるっている。
「あまりにも難解だったから」あっは!ぷふい!