爪牙

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第1図

第1図

第1図より
24金、33歩、27金、35玉、34金、同歩、13馬、24飛(イ)にて第2図

わたくしの、実質長編デビュー作。
序奏は、金を開いて、金を入手して、金を打って、金を捨てる。
金の序奏が終わって、いよいよ趣向に入る。
香が3本並んでいると、ハガシ趣向のようだがそうではない。
13馬と引いて、合駒を問う。
変化(イ)⇒ここ24歩合は24馬、同香、36歩、45玉、56成桂、同銀、46歩
同玉、64角成、45玉、55馬まで。
この順だと、36に打つのが「歩」なので、後の46歩が打てるのだが・・・
ここで何と奇想天外の合駒が現れる、歩でもいいところをわざわざ飛車なんて!

第2図

第2図

第2図より
同馬、同香、15飛、25角にて第3図

左の第2図から、同馬、同香のあと、36飛と打ってみよう。
以下、45玉、56成桂、同銀、のとき46歩が打歩詰。
つまり、玉方は将来の局面に備えてわざと強い駒を渡す。
そのため、打歩詰になってしまう。
強いて打開するとなれば、その打歩詰の局面から46飛とするくらいだが
以下、同玉、64角成、55桂中合、同馬・・・手は続くが詰まない。
これは後で出てくる収束に繋ぐ手順になるが、それは香がすべて上がって
いないとだめになっている。
ここの作り方も、実に機械的に作ってあって、わたくしの創作だとすぐにわかる。

第3図

第3図

第3図より
同飛、同香、17角、26飛にて第4図

36に飛を打っては、打歩詰を打開できないので、25から打ってみる。
ここで、歩合は取って、36に打って詰むので、角合となる。
ここに創作のアイディアが生まれた源が見える。
だいたい詰将棋の創作なんてものは、どんな夢を見るかが勝負だ。
都合の良い夢のような手順を考え、それを如何に実現するかだと思う。
そこで、あまりにも実現不可能な夢見たのでは辛いことになるが。
香を並べて、不利合駒を考えた時に、この角合を見つけ、いけると確信した。
さて、第4図となってまた不利合駒だが、ここで17から角を打つのではなく
13から打つと?

第4図

第4図

第4図より
同角、同香、15飛、25角、同飛、同香、13角打、24飛、同角成、同香にて第5図

左図は17から打って26飛の不利合駒をしたところだが、17角のところ13角は24飛合
以下、香が21に残ったまま収束へ向かうので詰まない。
そうして、すべて右辺での大駒の打合いは、不利合駒で終わり、いよいよ収束へ
この詰将棋は、エンジンが三つにきちんと分かれている。
@右側の大駒の打合いのエンジン
A不利合駒で打歩詰になるエンジン
B追い出された玉が破綻なく詰む収束のエンジン
これらが相互に機能的に働くのを、作り上げたわたくしはじっと見つめる。

第5図

第5図

第5図より
36飛、45玉、56成桂、同銀、46飛にて第6図

香がすべて上がって、いよいよ飛を36に打つしか手段がなくなった。
第6図で完全打歩詰のようだが、46飛が切り札だ。
このように、この「浮遊大陸のような箱」は不利合駒を打歩詰に誘う
だけでなく、収束へのドアを持つ必要がある。
そういう出口を作り、右側の香の状態によって詰む詰まないを分ける。
長編ではこういうところが実にむずかしい。
かなり都合の良い夢を見ると、現実にそれを行う場所が将棋盤では狭
い場合がある。

第6図

第6図

第6図より
同玉、64角成、55桂(ロ)同馬、35玉、36金、同玉、48桂、35玉にて第7図

飛を捨てて、角のラインに呼んで64角成に55桂中合。
変化(ロ)⇒これを省いて単に45玉は、36金、同玉、56飛、35玉、36銀、44玉
46飛、33玉、42飛成まで
金と桂を打ち換え、56に接点が出来たので、馬を捨てて飛と桂を繋いでいく。
普通、われわれの詰将棋にはこのような駒を捌く順はあまりないのだが、
この「浮遊大陸」から外へ出すアイディアがほかに浮かばなかった。
考えてみれば、エンジンだけで出来ている作品だ。
上部の銀二枚だけで収束の関連付けもすべてクリアーできたのは運だと思う。
いまなら、「浮遊大陸」をもっと機能的に作ろうとするだろう。

第7図

第7図

第7図より
46馬、同玉、56飛、45玉、46銀、44玉、36桂、33玉、24とにて第8図

箱の外へ出して、やっと収束が見えてきた。
本譜の最終手24とが可能になったのも、吊り上げておいた効果。
このように趣向自体が収束への関連付けになっている作品には
いくつかの特徴がある。
例えば、
趣向によって詰方の持駒のが増える「駒の増大型」
趣向によって玉方の置き駒が消去される「駒の消去型」
趣向によって駒が移動する「駒の移動型」
いろいろな方があって面白い。

第8図

第8図

第8図より
22玉、23香、31玉、32歩、同玉、52飛成、42歩、44桂、31玉、
22香成、同玉、42龍、11玉、12歩、21玉、32龍まで65手。

収束はよくあったというだけで、狙ったものではない。
趣向との関連付けで矛盾なく終わればよいと思っていた。
どうも、この頃の作り方は、相互に絡み合う部分が少なくて複雑さに掛ける。
まあ、デビューだから仕方がないが、優れた作品には様々な要素が一つの
「箱」の中で完結できるようになっている。
そうしたものはもちろんある種の偶然も加味されてのことだろうが、ほとんどの
場合、真剣に悩んだものにだけに神様がくれるプレゼントだろう。
この作品だって、収束の図は百くらいの可能性の中から作ったもの。