逃げ駒

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第1図

第1図

第1図より
32歩成、13玉、25桂、14玉(イ)23角成にて第2図

詰将棋の作り方にはいろいろある。
わたくしは、詰将棋そのものの力があまりない。
解いたり作ったりしているが、解くのは遅いし、少し難しいものになるとさっぱり解けない。
だから、わたくしは詰将棋の力ではなく理屈で作っている異色の作家だと思う。
この作品も、ゼロから理屈で作ってある。
最初に、頭の中でこういうのはどうだろうかと思いつき、その後その理屈のためにはこの部分は
こうでなくてはならない、あの部分は・・・と段々に重なっていく。
(イ)で25同銀は、24角、12玉、13歩、23玉、33角成、13玉、14歩、同銀、22馬まで
さて第2図の23角成で普通は、23角打だが・・・

紛れ図

紛れ図

紛れ図より
25玉、34角成、36玉、46と、27玉、45馬、36桂にて逃れ図

紛れ図は、初手から32歩成、13玉、25桂、14玉、23角成(第2図)で、23角打としたところ。
このほうが普通の詰方で、以下45馬に36桂合となって逃れ図で詰まない。
なぜこうなってしまうのかと言えば、原因は玉方に桂が渡るから。
だったら、桂馬をあらかじめ逃げておこうではないか。
これが、わたくしが「頭の中」で考えた構想。
名付けて「逃げ駒」
言うは簡単だが図化するのは大変だった。
なにしろわたくしは、変化紛れを読むのがへたくそなのでコンピュータが大活躍。
何度潰れたかわからないくらいだった。

逃れ図

逃れ図

逃れ図からも、以下36同馬、16玉、34角成、25桂合・・・でやはり詰まない。

他の詰将棋作家の方がどのように作っているのか良く知らないが、わたくしの場合は、
ほとんどの作品が、同じように「ある構想」を初めに立ててから作るようになっている。
それ以外に、作り方を知らない。
以前、短編を作ってくれないかとかとの依頼で作ったり、今回も女流棋士新団体LPSA
で日めくりの詰め将棋カレンダーを製作するので、いくつか9手以内のものを作ったり
したが、これもある筋にこういうことが出来ないかというテーマで作る。

中々信じてもらえない話だが、新聞に載っている詰将棋でもわたくしには中々解けない。
そのわたくしが、こういう作品を作ったり、解説したりしているのはある意味恐ろしい。
しかし出来てしまうのは仕方がない、何か他者とのアプローチが異なるのだろうか。

第2図

第2図

第2図より
23同玉(ロ)、33桂成、13玉、14歩、同玉、23角にて第3図

そこで、詰方は桂を「逃げておく」ために一工夫する。
第2図の23角成がその工夫、(ロ)の同玉で、25玉と逃げ出すのは、
43角、34桂、同角成、36玉、46と、27玉、45馬、16玉(角も桂も品切れ)
17歩、25玉、37桂でつかまる。
仕方がない、23同玉に、桂を33に成って、25の桂を見事に逃げた。
そして第3図、確かに桂は逃げたが、角損になっている。
しかし、こういう作品は初めてなのだろうか?
確か看寿に桂を取られないようにかわしておく作品があったように記憶しているが。
作っていて、思いのほか完成までが大変な構想だと感じ始めた・・・

第3図

第3図

第3図より
25玉、34角成、36玉、46と、27玉、45馬、36角にて第4図

桂を逃げておいた効果がここで現れる。
上部に追って、第4図で36角の中合は桂が品切れのため止むを得ない。
36角中合のところ、単に16玉は17歩、25玉、36馬まで。
結局のところ、最初に角損するが、あとでその角を入手するわけで、
プラスマイナスゼロ。
では、なぜ後から入手したら詰むのか、実は作る方にはちゃんとした算段がある。
桂を逃げておいた効果というには表面的な主題で、実は33に成桂を据えたことに
大きな意味がある。
また、12手目の局面と26手目の局面は、酷似しているが、と金の位置が違っている。

第4図

第4図

第4図より
同馬、16玉、25馬にて第5図

この第4図からの手順中、25馬を発見して作品になったと思った。
この手で、34角は25桂合で詰まない。
それは先の逃れ図から、36同馬、16玉に34角成とした局面とほぼ同一で、
そちらが逃れるならこちらも逃れなければならない。
そして、それを確立したのが盤面16桂の配置。
左の第4図から、36同馬、16玉(桂を取る)、34角、25桂合(たった今、玉が取った駒)
このように、詰む論理で取られる桂を逃げ、逃れる論理で取られたばかりの桂を使う。
このエコーが本局の命。
しかもこの盤面16桂は、最初に打った25桂をとられる変化に必要となっている。

第5図

第5図

第5図より
同玉、34角、14玉、23角成、25玉、37桂、16玉、17歩、同玉、
18香、27玉、45馬、37玉、36馬まで35手。

強手25馬ですべて解決。
33に据えられた成桂と、46に下げられていると金のおかげで、収束が成立している。
このように、解く側からはわかりにくい、論理の存在がある。
もし、こういった詰将棋の創作を目指すのなら、12手目と26手目の局面比較や
25馬の手前で34角、25桂合の逃れ順と、逃れ図からの36同馬、16玉、34角、25桂合の
逃れ順との比較を、しっかり見てほしい。
なお、51飛ですべての余詰め筋を一掃出来たのは幸運だったが、これも努力したものへの
神様のご褒美と感じている。