題名

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《原理図》
←動く将棋盤の名前 《原理図》より
  38飛、34桂、同飛、22玉、14銀、24桂、同香、12玉、23香成、11玉、
  12成香、同玉、24桂、22玉、31飛成、同玉、32飛、41玉、33桂、51玉、
  31飛成まで21手。

  本作は、「衛星の棲家:原理図」 からの発展した形で、左の図が最初の原理図となる。
  8段目には桂が打てないことを利用した作品。
  29香と38飛の利きをダブらせるためには、28に中合となるが、ここには桂が
  打てないために、工夫が必要となる。
  二枚の桂を渡すことになるが、34桂〜24桂がうまいしのぎ。
  4段目に中合したのは、24に出た香が邪魔駒になるため、手数が伸びるから。
  この構想作は、つぎのように発展した。

《発展図》
←動く将棋盤の名前 《発展図》より
  29香、34玉、25銀、23玉、32馬、同玉、にて原理図となる

  詰上がりが字の形になる、いわゆる曲詰は「逆算」という作図技法を使っている。
  煙詰などの条件作も同じようにこの技法を使っているが、原理図から発展した
  発展図も、実はこの技法で時間を巻き戻した。
  この発展図になると、香と飛の遠打の組み合わせになるので紛れが一挙に増える。
  44馬が実にうまい配置で、ほとんど駒数を増やさずに発展したのは見事だ。
  そして、これは未来への扉を開いた。
  つまり、原理図は右側だけの「差」で遠打の原理を支えていたため単純だったが、
  発展図になると左側の「差」を使って、複雑化が可能になった。 

《第1図》
←動く将棋盤の名前 《第1図》より
  27香、34玉(イ)25銀、23玉、32馬、同玉(ロ)39飛、にて《第2図》

  本作は、紛れが命だ。
  香と飛の遠打の組合せは、理論上20通りもある。
  ただし、同じ意味としてくくられるものもあるので実際に解答者が読んだのは
  数通りに絞られる。
  しかし、その中の29香・38飛の組合せが、かなり追えるので本筋と思われた
  解答者が多かったようだ。
  この紛れを順を追って解説していきたい。
  その前に、第1図から第2図へと行く過程での変化を示す。

《変化イ図》
←動く将棋盤の名前 《変化イ図》より
  27香、25桂、同香、34玉、26桂、35玉、13角成、26玉、27馬

  初手、27香に対して、25桂と中合する手がある。
  この25銀を拒否した手だが、この時54馬と22角のコンビネーションが
  すばらしい。
  26玉と逃げる玉に27馬と中空でアウト。

  筋違いに角や馬を置くと、以外に空間を狭めることが出来る。


《変化ロ図》
←動く将棋盤の名前 《変化ロ図》より
  36銀、24角、同香、同玉、33角打、同龍、同角成、同玉、
  43飛、22玉、23飛打、31玉、33飛右成、32歩、42飛成まで

  第1図からの手順中、最後の32馬に対して、同龍と取る手がある。
  これには、何と25銀を36に引く手で詰む。
  この手はわれわれ製作サイドでも中々発見できなかった。 
  これに対して、角以外の駒は、24同香、同玉、25飛でどこへ逃げても
  奪った合駒を打って詰む。
  角だけが、25飛以下14玉で詰まない。
  しかし33角打と強引な手があって詰んでいる。
  36銀といい、33角打といい、中々発見できない難手だった。

《紛れ1図》
←動く将棋盤の名前 《紛れ1図》より
(初手から29香、34玉、25銀、23玉、32馬、同玉、38飛、34桂として)
  43歩成、同玉、54銀、42玉、31角成、51玉(31同玉は詰む=X参照)、
  41飛、62玉、73歩成、同玉、71飛成、72歩にて《紛れ2図》

  一番解答者を悩ませた29香・38飛型、38飛に34桂中合として左図。
  手順は長いが、追い方の代表的な手順で、左辺に追うと大体こんな手順。
  途中、31角成に対して同玉は早詰みで次項で解説する。
  31角成も取れず、左辺に逃げ込むも、飛角三枚が自由に動ける状態。
  しかも銀が連なり歩も持っている。
  このような状態で、逃れるとはまさに奇跡的な構図だ。
  ここから64馬!と捨てる手と74歩と叩く手の二つの手段がある。

《変化X図》
←動く将棋盤の名前 《変化X図》より
  34飛、32歩、61飛、41銀、43桂、22玉、14銀、12玉、
  23銀成、11玉、14飛まで

  紛れ1の手順中、31角成に対して51玉、と逃げるところ、X31玉と取れれば・・・
  左図は31角成に対して同玉と取った局面だが。
  上と左から飛車で挟んでいく。
  43桂と打って、右に追えば割合に簡単。
  このように、紛れの中でも詰ましにくい順がよく読めば詰む。
  これが解答者を苦しめる。
  詰むか詰まぬかわからない靄の中で、一筋の明かりが紛れへ誘う。
  本作は「紛れが命」、これは解いてみた人にしかわからないかも知れぬ。

《紛れ2図》
←動く将棋盤の名前 《紛れ2図》よりの手段T
  64馬、同玉、62龍、74玉、72龍、73桂、63銀不成、
  84玉、34飛、93玉にて逃れ

  64馬と捨てる手は、一瞬ハッとする手段だ。  
  龍を活用するためのもので、72龍と迫ったところで合駒が悩ましい。
  73歩合に対しては、63銀不成として、64玉と右辺に逃げるのは、65歩、55玉、
  52龍、46玉、47歩、同玉、58龍・・として詰む。
  そこで左辺に逃げ込む84玉には、88飛、95玉、92龍、94歩、85飛、96玉、94龍
  と38飛を88飛と横に活用して詰む。
  従って、上の手順中85飛を防ぐ、73桂合が正解となる。
  これに対して63銀不成、84玉、に34飛と38飛を縦に使うのは、93玉で打歩逃れ。

《紛れ2図》
←動く将棋盤の名前 《紛れ2図》よりの手段U
  64馬、同玉、62龍、74玉、72龍、73桂、63銀不成
  84玉、88飛、95玉(Y)92龍、94歩、96歩、同玉、
  94龍、95歩、97歩、同玉、87飛、96玉 にて逃れ。

  同じように、64馬から切り込んで、今度は38飛を88飛と横に使う。
  これに対して、85へ合駒する手は、次項で。
  95玉とかわして、今度も何と打歩逃れである。
  この9筋も変化と紛れが紙一重で連なっているので、創作は  
  困難を極めた。
  表面だけ見れば、何のことはないが、逃れもまたギリギリ。

《85への合駒1図》
←動く将棋盤の名前 《85への合駒T》
  75銀、93玉、94歩、同玉、92龍、93歩、95歩、同玉、
  93龍、94歩、86銀、96玉、94龍まで

  左図は、上の紛れで38飛⇒88飛とに、Y95玉ではなく85桂合したところ。
  言われてみれば、88飛には95玉で詰まないのだが、余りに危険なので
  当初は、我々も95玉は念頭になかった。 
  85桂合には上の順で詰んでいる。
  まさに作ったようにきれいに詰むので、最初はこの図もダメかと思っていた。
  創作に没頭している方なら、わかると思うが、配置には運も勘もある。
  経験が教えている部分が、働いているのだろう。
  

《85への合駒2図》
←動く将棋盤の名前 《85への合駒U》
  85飛、同桂、74龍、93玉、95香、82玉、72龍、91玉、92龍まで

  今度は85に香合だが、これも飛で取って龍と香を連結して詰む。
  このように、解く側からすると現局面(例えば左図)が詰むのか詰まないのかは
  まだわかっていないので、桂合も香合も詰んでいると95玉と交わす手が見えない
  以上、どうやらこの順(38飛を88飛と横に使う順)は詰むらしいとの結論になる。
  そして、桂合も香合も駒余りなので、作意順を探すのだが・・・
  こうやって、多くの解答者は地獄を見ることになる。
  95玉と交わす手を見つけて、この順は詰まないと知って、またもや、他の手段を
  模索する。

《紛れ2図》
←動く将棋盤の名前 《紛れ2図》よりの手段V
  74歩、84玉、75馬、94玉にて逃れ

  先の紛れ1図からの手順中、64馬と捨てる手に代わって、歩を叩く。  
  この74歩を、同玉と取る手は72龍として簡単。
  よってこれをかわして、75馬と引き付けるも、94玉で詰まない。
  38飛の活用を玉方99とが制限している。 
  この99とはまさに命の配置で、本作の作意順27香・39飛の組み合わせの際、
  34桂中合の変化(変化ハー2後述)では、39飛が99へ回って詰む順となる。
  このように、遠い99とまで深い意味がある、まさに盤面いっぱいの作品。

《紛れ3図》
←動く将棋盤の名前 《紛れ3図》よりの手段T
  38飛、22玉、34銀、24香、同香、13玉、23香成、14玉、
  18飛、15歩にて逃れ

  紛れ3図は28香・39飛の組合せ。
  この組合せに対しては、38歩(桂は八段目に打てない)しかない。
  これを取ってしまうと、皮肉なことに桂がないので逃れる。
  作意順の27香・39飛に対して桂合する変化は後述するが、桂合して
  右辺に逃げ込むと、最後に26桂と打てるので詰む。
  従って詰め方は、38の歩中合を取らずに、43歩成から攻めることになるが
  これがまたむずかしい。
  一体、どの組合せが正しいのか・・・・

《紛れ3図》
←動く将棋盤の名前 《紛れ3図》よりの手段U
  43歩成、同玉、49飛、44歩、同飛、53玉、31角成、44玉、
  41飛、43歩、45歩、同玉、43飛成、44桂、54銀X55玉、
  56歩、同と、64馬、同玉、63龍、55玉、65龍、46玉、
  45龍、37玉にて逃れ

  38に歩中合を発生させるこの組合せだと、ご覧の通り、 
  作意順を追って、最後に37から逃げ出されてしまう。
  この紛れにはまれば、作意順にたどり着くのはそうむずかしい
  ことではない。
  現実には、X55玉のところ、46玉と逃げ出されて捕まらない。

《第2図》
←動く将棋盤の名前 《第2図》より
 37歩(ハ)、43歩成、同玉、49飛、44歩にて《第3図》

  さんざん追い掛け回した末に、やっとたどり着くのが27香・39飛型。
  これに対しては37歩中合が最善なのだが、原理図などで見た34桂中合は
  どうなるのだろうか?
  その変化ハは次項で取り上げる。
  37歩は取ると、飛香がダブって右辺に逃げて詰まない。
  すると、43歩成からの追撃となる。
  飛車を寄って中合となるが、これを省いて53玉と寄るのは31角成、
  と龍を取る手があって詰む。

《変化ハ−1図》
←動く将棋盤の名前 《変化ハ−1図》より
  (第2図の37歩のところ、37桂とした変化)
  37飛、22玉、34銀、24香、同香、13玉、23香成、14玉、17飛、15歩、26桂まで。

  原理図などで、出てきた34桂中合は、飛香の効きをダブらせるためのもの。  
  この37桂も同じような意味だが、作意順に比べて、桂が入るのは大きい。
  上の順は、右辺には逃げられないことを示したものだ。
  左辺に逃げる=37飛に42玉も、以下31飛成、53玉、43飛、62玉、73飛成まで詰む。 
  この37に桂合する変化は存外やさしい。
  むずかしいのは、次の34桂中合である。
  原理図では62の地点が塞がっているので、この34桂中合が詰むようになっているが、
  本作はそこが空いている、ここが変化の難しいところだ。

《変化ハ−2図》
←動く将棋盤の名前 《変化ハ−1図》より
  (第2図の37歩のところ、34桂とした変化)
  43歩成、同玉、54銀、42玉、31角成、51玉、41飛、62玉、73歩成、同玉、
  71飛成、72歩、74歩(Z)84玉、75馬、94玉、85馬、93玉、99飛まで。

  上述したように、34桂中合これを取っては詰まない。
  そこで同じように43歩成から追撃する。
  これには、(Z)のところで、64馬捨てと74歩と歩を叩く二つの手段がある。
  本変化は、飛車の位置が8段目ではなく9段目。
  これを生かすには、74歩と叩く《紛れ2図》よりの手段Vが、有効となる。
  では今度は、飛車を8段目に近づける、38歩中合はどうか・・・ 
  すなわち、第2図37歩のところ、38歩〜34桂中合と逃れようと言うものだが。

《変化ハ−2図》
←動く将棋盤の名前 《変化ハ−2図》より
  (第2図の37歩のところ、38歩〜34桂とした変化)
  38飛、34桂、同飛、22玉、14銀、24桂、同香、12玉、13歩、11玉、
  23桂、22玉、31飛成まで

  上の変化で、最終手99飛と回らさせないために、38歩と一発叩く手がある。   
  しかし、譜に見るように、一歩入ってしまうと、何と右辺で詰んでしまう。
  本作は、中合に対して、それを飛車で取るか、43歩成で追撃するかは、詰方
  選択である。
  従って、下手に中合するとこのように飛車で取られてあっけなく詰んでしまう。 
  13歩が正に一歩千金。
  ふうっ、これでやっと大体の紛れと変化が終了、それにしても濃密だ。 

《第3図》
←動く将棋盤の名前 《第3図》より
  44同飛、53玉、31角成、44玉、41飛、43歩 にて《第4図》

  ここからの手順は、それまでの濃密さに比べると、割合に淡白だ。
  例えば、本譜で53玉に対して、例えば64銀などは、62玉、73歩成、51玉で
  まったく手が続かない。
  龍を取って、飛車を打つまではほとんど一本道だ。
  ただし、43歩のところで、42歩中合はどうか?
  これを非限定だという人もいたが、以下42同龍、43歩、45歩・・・詰みまで手順が  
  変わらず取った歩(42の中合)が余るので、無駄合とするのが正しいと思う。

《第4図》
←動く将棋盤の名前 《第4図》より
  45歩、同玉、43飛成、44桂にて《第5図》

  一見大柄な配置も、こうやって幾多の膨大な変化紛れを内包しているとわかれば
  案外コンパクトに見えてくるから不思議だ。
  要するに中身と外見のバランスなんだと思う。
  解説を読むまで「99と」は思わず笑ってしまいそうな配置だが、意味を知ると
  その奥深さに感銘する。
  さて、いよいよ最終場面に近づいた。
  44桂は、34〜36龍を防いだ手。

《第5図》
←動く将棋盤の名前 《第5図》より
  54銀、55玉、56歩、同と、64馬、同玉、63龍、55玉、
  65龍、46玉、45龍まで33手。《詰上がり図》

  銀を擦り寄って、交わす手に歩を叩く。
  馬を捨てて龍を回転すれば、見事37歩が退路を塞いでいる。
  飛と香の二枚の組み合わせによって生じる、中合の歩を取らずに
  玉の退路として逆用するといった、遠大な構想作はそうあるものではない。
  しかもその組み合わせのどれもが、詰む詰まないのギリギリの線で絡み合って
  おそらく解説を読んでもそうすぐには理解できないだろう。
  この時代、条件作や、長手数レースが展開され、本来の謎解きの楽しさ、深さを
  持ち合わせた作品が少なかったので本作の意義は大きかった。

《詰上がり》
←動く将棋盤の名前